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大阪地方裁判所 昭和53年(行ウ)35号 判決 1980年1月30日

原告 技研サービス株式会社

被告 東淀川税務署長

代理人 高須要子

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める判決 <略>

第二当事者の事実上の主張

一  原告会社の請求原因 <略>

二  請求原因に対する被告の認否 <略>

三  被告の抗弁

(一)  損金算入の否認について

(1) 寝屋川市上神田二丁目一一六番二六 宅地二九七・三六平方メートルのうち二六九・九八平方メートル及び同所一一六九番二七 宅地一四六・九八平方メートルの土地(以下本件土地という)は、原告会社の取締役訴外溝口隆の実父溝口繁の所有である。原告会社は、昭和四五年八月、溝口繁から、本件土地を、建物所有の目的で、賃貸借期間五年、賃料一か月金三万円の約束で借り受けた。原告会社は、同年九月、本件土地上に、鉄骨造スレート葺二階建の事業用工場兼倉庫兼事務所を建築し、原告会社寝屋川営業所の事務所、工場及び倉庫として使用している。

(2) 原告会社は、貸主溝口繁との上記関係から右契約に際し権利金を支払わなかつたし、帳簿上も借地権価額の計上をしなかつた。

(3) 原告会社と溝口繁とは、本件土地の貸借について協議をした結果、昭和五〇年八月一日、右賃貸借契約を更新することとし、(ア)賃貸借期間は五年、(イ)賃料は一か月金四万二、〇〇〇円、(ウ)保証金は二〇〇万円とし、本契約解約の際保証金のうち半額に当る金一〇〇万円は返還するが、残額金一〇〇万円は返還しないという条項が約された。

原告会社は、そのころ溝口繁に対し右保証金二〇〇万円を支払つた。

(4) 原告会社は、右のとおり溝口繁に支払つた保証金のうち返還を受けない金一〇〇万円(以下本件一〇〇万円という)を、帳簿上も、申告においても、本件事業年度の損金の額に算入していた。

(5) 本件土地付近では、昭和四五年当時から、借地契約にあたり権利金を授受する慣行があつた。

(6) 保証金がいかなる性質を持つかは契約全体から判断すべきであるが、本件一〇〇万円は、右契約更新につき支払われたものであるから、更新の対価としての性質を有する。

(7) 原告会社は、本件土地の借地権を前事業年度の資産に計上せず、更新直前の右借地権の帳薄価額は零であつたから、原告会社の支払つた借地権更新料は、税法上は法人税法二条二三号、同法施行令一二条、一三九条により、損金には算入されず、借地権の価額に加算して計上されることになる。

(8) まとめ

本件一〇〇万円は、損金には算入されず、資産に計上すべきであるから、被告は、原告会社がした確定申告の所得額に対し、本件一〇〇万円を加算したうえで本件処分をしたものである。

(二)  更正の理由の附記について

(1) 本件処分の通知書に記載された更正の理由は、別紙のとおりである。

(2) 右の更正の理由は、原告会社の計算が認められない具体的根拠を、原告会社がその記載自体から了解できる程度に記載されており、これによつて、処分庁の恣意も十分に抑制され、原告会社の不服申立の便宜も尽されているから、右の理由記載は法の趣旨に十分合致している。

四  原告会社の抗弁認否と主張

(一)  損金算入の否認について

(1) 抗弁(1)ないし(4)の各事実は認め、同(5)の事実は否認し、同(6)、(7)の主張は争う。

(2) 本件一〇〇万円は、法人税法施行令一三九条にいう契約更新の対価には該当しない。すなわち、

本件一〇〇万円の法的性質は必ずしも明らかではないが、原告会社としては、世間でいう保証金のつもりで貸主に支払つたものである。保証金のうち返還を受けない部分の割合は高いが、保証金の金額が比較的低いために控除率が高まつたにすぎない。また、関西地方では権利金概念が用いられることは甚だ稀であり、しかも権利金の法的性質を一義的に把握することは困難である。

(二)  更正の理由の附記について

(1) 抗弁(二)(1)の事実は認め、同(2)の主張は争う。

(2) 本件処分の通知書に記載された更正の理由は、法の要求する理由附記としては不充分である。

被告は、本件処分前に原告会社に対し修正申告の勧奨をしたが、その理由とするところは、保証金は繰延資産であるから一時に損金に算入することはできず、五年間に分割して損金処理をすべきであるとか、五年目の最終年度に損金処理をすべきであるとか述べて、その見解は定まらなかつたのである。そこで、原告会社はその勧奨に応じなかつた。

被告は、昭和五一年一〇月三〇日付で、「渡し切り保証金一〇〇万円は保証金に該当しますので損金には算入されません」との更正の理由を附して、本件処分と同じ内容の処分をしたが、その後これを更正理由不備を理由に取り消して本件処分をした。

本件処分に対する異議申立を棄却する被告の昭和五二年六月一三日付異議決定書の理由は、「本件契約解除の際に返還されない保証金一〇〇万円については、前記契約の賃貸借期間に係る権利の対価と認められますので、当期の損金の額には算入されません。」と附記されている。

本件処分についての審査請求を棄却する国税不服審判所長の昭和五三年三月二七日付裁決書に記載された理由は、「本件土地付近においては、借地契約に当り権利金を支払う慣行があり、その額は時価の概ね五〇パーセントである」との事実を付加認定したうえで本件一〇〇万円は更新の対価で法人税法施行令一三九条により損金に算入されるというものである。

被告は、本件訴訟では右裁決の理由付けを踏襲した主張をしている。

以上の被告の主張の推移は、本件処分の附記理由が不備であることを如実に示している。

第三証拠 <略>

理由

一  課税の経緯 <略>

二  損金算入の否認について

(一)  抗弁(一)(1)ないし(4)の各事実は当事者間に争いがない。

(二)  <証拠略>によると次の事実を認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(1)  原告会社が昭和四五年九月本件土地上に建築した鉄骨造スレート葺二階建の延床面積は、一七八・二平方メートルであり、その建築に要した経費は五〇〇万円であつた。したがつて、右建物は、一時的な仮設建物ではない。

(2)  本件土地の一か月の賃料は、当初は金三万円であつたが、当事者の合意により、昭和四七年五月分から金三万六、〇〇〇円、昭和四九年六月分から金四万二、〇〇〇円に改められた。

(3)  原告会社と溝口繁とは、昭和四五年の賃貸借契約に際し契約書を作成しなかつたが、昭和五〇年八月の更新時には、契約書(<証拠略>)を作成した。原告会社と溝口繁とは、この契約書によつて、抗弁(一)(3)の(ア)ないし(ウ)の条項のほか、賃貸借期間は絶対に延伸しないこと、賃貸借期間満了のときは原告会社は本件土地上の建物、工作物等を全て収去して本件土地を明け渡すことなどを約束した。しかし、このとき、賃料は改訂されなかつた。

(4)  原告会社と溝口繁が、右のとおり、契約書を作成し、保証金名義の金員を支払うことにしたのは、(ア)更新することにより当初契約で定めた五年の期間を超えて賃貸することになること、(イ)借主は地主の息子が取締役をしている原告会社であるとはいえ、別の人格であり、原告会社にはその息子以外にも出資者、取締役がいるため、権利関係を明確にしておくことが望ましいと、当事者双方が考えたこと、(ハ)貸主において一時に金銭を必要とする事情があつたことのためであつた。また、約束の賃貸借期間が短いことが考慮されて、一般の場合に比して、保証金名義の金員の額は低く定められた。しかし、もし当事者間で昭和五〇年八月に契約の更新をしないこととなれば、右の保証金名義の金員は支払われなかつた。

(5)  本件土地の賃料は、右更新後一回も改訂されていない。

(6)  本件土地付近の土地については、賃貸当事者間に特別の関係がある場合を除いて、新規賃貸に際して権利金を授受するのが通例であつた。

(三)  原告会社代表者の本人尋問の結果中には、右保証金のうち本件一〇〇万円は、それまで本件土地を貸してくれたことに対する謝礼の趣旨をも含んでいるとの供述部分があるが、過去の賃貸に対し約定されていた賃料以外の金員を遡つて支払いをすることは極めて異例のことであるところ、そのような異例なことをするに至つた事情についての立証がないから、右供述部分は採用しない。

(四)  以上の諸事実からすると、本件一〇〇万円は、契約を更新し、賃借権を存続させることの対価としての性質を有しているものとしなければならない。そして、右賃借権は、約定どおりとしても昭和五〇年八月から五年間は存続し、当事者の右合意に拘らず法律上は借地法二条、一一条により昭和四五年八月から三〇年間当然存続するものである。

したがつて、このような法律上の性質を有する賃借権を更新するための対価として支出された本件一〇〇万円は、法人税法施行令一三九条によつて右賃借権の帳簿価額に加算されるべきものである。ところが、原告会社は、帳簿上右賃借権価額の計上をしていなかつたのであるから、損金の額に算入される部分はないことになる。

(五)  まとめ

そうすると、本件処分は、本件一〇〇万円の損金算入を否認して、原告会社の所得が申告額より一〇〇万円多い額を認定して更正し、このことを前提に過少申告加算税の賦課決定をしたものであるから、違法な点はないことに帰着する。

三  更正の理由の附記について

(一)  原告会社が青色申告承認を受けて本件事業年度の法人税について青色申告書を提出していたこと、本件処分の通知書に記載された更正の理由が別紙のとおりであること、以上のことは当事者間に争いがない。

(二)  法人税法一三〇条二項が、青色申告にかかる法人税について更正をする場合には更正通知書に更正の理由を附記すべきものとしているのは、更正処分庁の判断の慎重合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものである。したがつて、帳簿書類の記載を否認して更正する場合にその更正通知書に附記すべき理由は、単に更正にかかる勘定科目とその金額を示すだけでは足らず、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示することによつて具体的に明示することを要するとするのが、最高裁判所の判例(最判昭和五四年四月一九日、判例時報九二八号五二頁参照)とするところであり、当裁判所もこれと見解を同じくする。

そこで本件処分の通知書に記載された別紙の更正の理由をみると、その第一段において、原告会社の経理にかかる勘定項目とその内容、金額を示し、第二段において右勘定項目に関する事実の認定と証拠を示し、第三段において、右認定事実に関する判断を示している。

右第二段の事実認定に供した証拠として挙示されているのは賃貸借契約書であるが、<証拠略>によると、この契約書は原告会社が法人税法一二六条一項、同施行規則五九条一項三号により保存を義務づけられ、現に保存していたもの(<証拠略>)であり、原告会社は帳簿の記載や申告において右契約書記載のとおりの契約をしたことを自認していたことが認められる。したがつて、本件処分の更正理由について特長的なことは、更正が申告の基礎となる帳簿書類記載の具体的な契約や支払等の事実の存否を否定したものではなく、申告の基礎となる書類に記載の基本的な事実はそのまま認めたうえ、その事実に対する法的評価(本件一〇〇万円が本件事業年度の損金かどうかの判断)につき、原告会社の帳簿や申告と異なる法的見解をとるに至つた点にある。この点は通知書に記載すべき更正の理由の程度を判断するに当り考慮に入れておくべき事柄である。

ところで、ある事実を基礎とする法的判断については、その結論が示されれば文献調査、専門家への求意見によつてその判断の当否が判定できるのであるから、事実認定の場合と異なりその判断の根拠を納税者に告知せねばならない必要性ははるかに低いということができる。したがつて、ある事実を基礎とする法的判断については、通知書の更正の理由においても、事実と法的判断の結論を示せば足り、それ以上にそのような結論をとるべき根拠までも示す必要はないと解するのが相当である。

もつとも、法的判断といつても、それは具体的な事実を基礎としてされるものであり、本判決がした前記二(四)の法的判断も、前記賃貸借契約書に記載の約定だけではなく、前記二(一)(二)の事実(ただし、その全てが不可欠というわけではない)を確定のうえ、それを基礎としてされたものである。しかし、この判断の基礎となつた諸事実のうち、判断にあたり最も重要な事実は、本件一〇〇万円が賃貸借契約書作成にあたり保証金名義で交付されたものではあるが、それは賃貸借契約終了にあたつて返還を要しない旨が約されている事実であり、この事実は表現はやや異なるが、別紙の更正の理由の第二段に証拠を援用のうえ記載されているところである。通知書に更正の理由として記載すべき認定事実は、本件においては、右の限度で充分であつて、それ以外の事実、例えば本件土地付近では賃貸借にあたり権利授受の慣行があるか否かは、右事実に比較すれば重要性の程度が低いものであるから、それを更正の理由に記載することは必要でない。

そうすると、本件処分の通知書の更正の理由の記載は、法の要求する更正理由の附記として十分なものというべきである。

(三)  まとめ

本件処分の通知書に記載された別紙の更正の理由は、法人税法一三〇条二項が要求する理由の附記として充分であり、原告会社が主張する違法の点はない。

四  結論

以上の次第で、本件処分は適法であつて、この取消しを求める原告会社の本件請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法八九条により敗訴者の負担とすることとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 古崎慶長 井関正裕 小佐田潔)

別紙

更正の理由

貴法人備え付けの帳薄書類を調査した結果、所得金額等の計算に誤りがあると認められますから次のように申告書に記載された所得金額等に加算、減算して更正しました。

加算

1. 雜損失 1,000,000円

貴社は寝屋川市下神田町22―2 溝口繁氏から下記の土地を貸借するに際し、同氏に昭和50年7月14日保証金として2,000,000円を支払い、同日そのうち1,000,000円を雜損失として損金経理されています。

ところで貴社は、昭和50年8月1日同人とあらためて土地賃貸借契約を締結しておられますが、同賃貸借契約書によれば、貴社は賃貸人に保証金2,000,000円を支払い解約の際はそのうち半額の1,000,000円は返済されることとされています。(賃貸借契約書第11条(一)(四))

従つて解約時に返済を受けることとなる1,000,000円は預け金であり、その余の金額はその土地の賃借を条件として土地賃貸人溝口繋氏に支払つたものと認められますので、この返済を受けることのない1,000,000円は当該賃借に係る土地の上に存する権利の価額に相当するものであり、損金の額に算入されません。

賃貸借土地

(所在地) (面積)

寝屋川市上神田町2丁目1169―26の1部 270m2

同上 1169―27の全部 147m2

加算金額計 1,000,000円

(以下余白)

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